TPP特別委参考人質疑 鈴木宣弘東京大大学院農学生命科学研究科教授 田代洋一横浜国立大学名誉教授
投稿日:2016年10月27日

192-衆-環太平洋パートナーシッ…-8号 平成28年10月27日

○斉藤(和)委員 田代先生の方から牛肉の話がありましたけれども、やはり牛肉・オレンジの自由化によって、牛肉は国産のものは高くて手が出せないと。こうした状況の中で、TPPによって豚肉なども関税がかなり下げられる、安くなる、もうなくなる、そういった状況の中で、豚肉も国内産は食べられなくなるのではないか、そういう懸念があるわけですけれども、どのようにお感じでしょうか、田代先生。

○田代参考人 国産の豚肉が食べられなくなるかどうかということについては、むしろ鈴木先生の方がお詳しいと思いますけれども、ただ、問題は、牛肉はともかく、豚肉については、はっきり言って、味の面でもって一般の我々消費者が国内産、外国産の区別をなかなかつけることができない、こういう難点がございます。そういう点では、こうやって関税が引き下げられていくということになってくると、輸入の構造が変わってきて、大量に豚肉が入ってくるということがあるなという感じがいたします。
 この間、テレビでどこか大阪のレストランの方を見ていたら、ランチには輸入豚を使う、ディナーには国産を使う、こういう使い分けがどんどん進んでくるということでありますから、当然、やはり大きな影響を受けるというふうに考えております。

○斉藤(和)委員 鈴木先生の方がというお話だったので、それに触れていただきながら、配付資料の九ページに、農業政策は安全保障政策というお話があります。先ほど、食料自給率三九%もありましたけれども、食料、農業の問題と食料安全保障の問題との絡みで、先生の御見解、そして田代先生にもお話をいただければと思っています。

○鈴木参考人 まず、豚肉の件に関しましては、政府は、豚肉については、いわゆる差額関税制度を守ったので基本的にはほとんど影響がないと言っております。これは間違いでございます。
 差額関税制度によって、今は、安い豚肉と高い豚肉をまぜて五百円幾らにして、関税が二十二・五円という一番低くなるようにして輸入をしている。それで、今度、一律五十円の関税になる部分が多くても、関税五十円よりも二十二・五円の方が低いから、今の、コンビネーションというまぜて輸入する仕組みをやめないんだというふうに説明している。これは完全な形式論です。たくさんの輸入業者さんは、五十円でいいならば安い部位を大量に輸入しますよと言っておるわけですよ。だから、それだけの影響がある。しかも、アメリカで一番TPPで喜んでいるのは豚肉業界なわけですよね。ということは、大変なことだということがわかるわけですよね。
 そういう意味で、既に、牛肉もそうです、豚肉もそうです、自給率は五割を切っているわけですよ。それが、牛丼、豚丼が安くなるからということでどんどん国民がそちらの方に走っていったら、自給率は本当に一割とかに近づくかもしれません。
 そのときに大変なのは、食品の安全の問題でも出てきますように、成長ホルモン、ラクトパミン等のたくさんのリスクが満載の輸入牛肉、豚肉を食べて、発がん性があり、がんがふえてきた、大変だ、国産の安全、安心なものを食べたいと思ったときにはもうつくってくれる人がいない、このときになって気づいても遅いんだ。食に安さだけを追求することは命を削ることなんだということに今気づいて、きちんと対策をしなければ、食料の安全保障は守れない。
 食料の安全保障は、まず量を確保することが大前提であって、量がきちんと安定的に確保できなければ、安全なもの、質の安全保障も守れない。つまり、安全なものを選ぼうと思ってももう選べなくなるわけですから、そういう意味で、国民を守る食料というのは、質、量の面できちんと安定的に確保されなければいけない。
 もう一つは、いざというときに食べる食料がなくなるということは日本ではないんじゃないかなんということを言う議論は、私は間違っていると。
 アメリカなんかは、食料は武器であると言って政策をやってきた。
 あのブッシュ大統領も、戦争を続けて困ったものだったけれども、食料はナショナルセキュリティーだ、皆さんのおかげでそれが常に保たれているアメリカは何とありがたいことかと農家の皆さんにお礼を言って、それに引きかえ、どこの国のことかわかると思うけれども、食料自給できない国を想像できるか、それは国際的圧力と危険にさらされている国だ、そんなふうにしたのも我々だけれどもな、もっともっと徹底しようと言っているわけですから、そのことを私たちは深刻に受けとめなきゃいけない、そういうふうに思います。

○田代参考人 私個人的には余り食料安全保障という言葉は使いたくない立場でありまして、歴史的に見ると、やはり、食料安全保障は軍事的な安全保障と一緒に出てきた言葉でありますので、ちょっと危ないなというふうに思っております。
 ただ、今御指摘がありましたように、国民の安全を確保するという上で、やはり食料の一定の自給率は必要であるということは明確な話だと思います。
 ちょっときょう議論になっていないんですけれども、御承知のように、TPPは生きた協定、リビングアグリーメントということになっているんですね。これからどんどん拡大していく。それは、もう既に韓国が入りたいというようなことを言っていますし、行く行くは中国まで入ってくる。そうなってくると、今の三九%の食料自給率も、これはやはり、近隣のタイを初めとする農業国が入ってくれば、もっともっとこの自給率はおっこっていくことがもう目に見えている。
 そういう長い目でもってTPPの影響を見ないと、やはり国民の安全という点でも将来を見失うことになるんじゃないか、こういうふうに考えております。

○斉藤(和)委員 国内を見失うのではないかというお話がありました。
 先ほど田代参考人の方から、先進国の農政の標準から日本は外れているというお話がありました。その辺をもう少し詳しくお話しいただけないでしょうか。

○田代参考人 ちょっと言葉足らずなところがありますけれども、ヨーロッパを初めとして、自由化というか国際価格並みに域内価格を引き下げていく、そのかわりに、その所得の減った分は直接所得支払い、ダイレクト・インカム・ペイメンツで賄っていくというのが国際標準になっている。それが、先ほど鈴木先生がデータでお示しになった、ほぼ農家の所得の一〇〇%が財政によって負担されている、こういうことだと思うんですね。それは、まさにやはり、国際化し自由化したから、その代償としてやるということだと思うんですね。
 日本は、今のところそこまではまだTPPの前であればいっていないということになってくるわけですから、そこはやはりヨーロッパと違うと思うんですけれども、ただ、もしも本当にTPPをやるならば、関税撤廃を長期的に考えているわけですから、本格的な直接支払い政策、ヨーロッパ型のものに転換しなければ、これはやはり農家は所得を確保できなくなってくる、そういう意味でございます。
 今、TPPを抜きにして直接所得補償が全てだということを申し上げているんじゃなくて、TPPでもって完全自由化に追い込まれてくるならば、それはやはりそういう政策をとる以外に道はないということを申し上げた次第です。

○斉藤(和)委員 直接的にやはり農業を支えていくということがなければ、本当に食料自給率三九%を維持するということはあり得ないし、TPPによってさらに日本の農業が壊滅的状態になるということは、先ほど来先生方からあったと思います。
 その中で、よくTPPと韓米FTAは似ているというお話があります。先ほど鈴木先生も少しお触れになりましたけれども、この韓米FTAによって、韓国の農業の中での変化、また韓国国内での起こっている変化など御紹介いただければと思います。これは田代参考人にもお願いいたします。

○鈴木参考人 韓米FTAは、TPPと似たような内容を持っているということもあって、大変日本でも議論になりました。
 私も、韓米FTAが発効する前にも韓国に伺って、農業への影響を調べました。そのときに一番問題になっていたのは牛肉でした。牛肉の十四年間での関税撤廃が韓国の畜産を潰すのではないかということで、韓国には和牛と対応するような韓牛というブランドがあるが、これはそれほどのブランド力がないので大変なことになるというのが専門家の見方でした。
 そして、ふたをあけて韓米FTAが発効して直後、もう一年目に、アメリカからの輸入が五割ふえて、そして、韓国の子牛価格は二五%も下がるという大変な事態になりました。十四年後に関税撤廃で徐々に下げていくはずなのに、もう一年目からこういうことになったということで、韓国は大変な混乱に陥った。
 これが、我々が参照しなければいけない大きな一つの事例ではないかというふうに思います。

○田代参考人 具体的な品目について、今、鈴木先生の方からお話がありましたけれども、私は、むしろ外枠で考えたいと思うんです。
 まず第一点目として、米韓FTAの結果として、韓国が予想していた以外の作目にやはりいろいろな影響があらわれてくるというか、こういうことがあると思うんですね。このTPPをめぐっても、やはり、米が危ないということになってくると、今現地では産地を挙げて園芸作にシフトしようということでありますが、そうやってみんなが園芸作にシフトすれば、今度は園芸の方が玉突きでもってやられちゃうというか、こういう思わざる問題が出てくるということが一点。
 それから二点目に、先ほどちょっと農協の問題について触れましたけれども、この米韓FTAのもとでもって農協の信用、共済事業が分離される、会社化されるという、作目だけではなくて、そういう大きなところもやはり見ていかなきゃならないんじゃないか。
 それからまた、ISDSで、御承知のように、ソウル市の、有機農産物を使った、こういうものが、みずからやはりちょっと撤退せざるを得ない、こういう影響もあらわれてくる。
 ただ、私は、今回最大に韓国から学ばなきゃならないことは、再協議を求められたという、しかも再協議に応じたという、こういう前例があるよということをやはり重要なこととして学んでおくべきだというふうに考えております。

○斉藤(和)委員 本当に、韓国でもさまざまな影響が予想をしなかったところにも出ているというお話がありました。
 鈴木参考人の方から先ほどあった、遺伝子組み換え食品の問題や、学校給食に地元のものが使えなくなるというお話、また、田代参考人からもありました、地元のところでとれた木を使って公共工事をやるということさえもかなわなくなるような事態になりかねない。そして、TPPは安全だと言いながらも、行き先不明のバスに乗らされるというのは非常にわかりやすいと思いました。
 改めて、今の日本農業の現状から見た場合、TPPはどのような影響になるのか、そして、本来、今やるべき日本農政への対策というのは何が一番必要だとお感じになっていらっしゃるでしょうか。両参考人からお願いいたします。

○鈴木参考人 まず、日本の農業は、既に今でも非常に苦しくなっているということですね。お米の生産量は今八百四十万トンありますが、これが十五年後には、我々の試算では六百七十万トンにまで減る可能性がある。地域がもたなくなります。TPPを入れなくてもです。
 しかしながら、消費は、米は六百万トンになる可能性がある。六百七十万トンまで生産が減っても、まだ七十万トン余る。だから餌米をつくって畜産にと言いますけれども、畜産の方は、非常に巨大な経営は出てきていますが、中堅規模も含めてどんどんやめております。生産量は減る可能性が高い。何と十五年後には、計算の仕方によりますが、五割も六割も生産が減る可能性がある。だったら、餌米をつくっても誰が食べるのか。
 今の施策体系でも地域が回っていかない、そういう状況になっているのに、さらにTPPについては基本的に影響がないと言っているわけですよ。影響がないから何もしなくてもいいと言っているわけですから、これはほとんどの家族経営が潰れてもいいと言っているのに等しいと考えざるを得ない。そうなれば、地域の伝統も文化もコミュニティーもなくなる。
 しかしながら、そこに巨大企業の一部が、諮問会議に入っているようなメンバーの方が農業をやれば、それでその方がもうかればいいんだと言っていたら、これは日本国民を支えることはできません、地域も支えることはできません。
 しかも、兵庫県の養父市も、言いましたけれども、特区で起こっていることは、企業が農地を買えるようになった。その企業はどこですか、そして、そこの社外取締役は誰と誰ですか。ほとんどこれは利益相反ですよ。自分たちの利益を、私益を追求するために政府の会議を利用して、そういう人たちが自由に日本の方向性を決めて、今だけ、金だけ、自分だけで、国民を苦しめ、地域を苦しめ、TPPをやり、国内の規制改革をやっていって、誰もとめられない。
 この現状を今とめなければ日本の将来は危うい、そういうふうに思います。

○田代参考人 既にTPPの影響はもうあらわれております。二〇一五年の農林業センサスでも、かつてなく離農がふえている、それから基幹的農業従事者が減っている。こういう事態からすると、もう既に影響はあらわれているというふうに私は見ております。これはやはり、高齢に達した方、頑張っていらっしゃった方が、TPPで将来が危ないなと思ったらこの際離農ということだと思うんですね。
 それから二点目に、後継者として新規就農にやはり頼らざるを得ないところがあるんですが、新規就農者が十年、十五年後の自分の将来を農業に託せるか、こういう懸念が非常にふえてくるということが二点目の影響です。
 三点目で、これはある酪農県の一番トップの酪農家に伺ったんですけれども、今はこのTPPを控えて、投資をするかどうか。子供の代までは借金が残っても仕方ない、だけれども、孫の代までは借金を残したくないということで、もうこの際投資を諦めるというか、こういう形でもあらわれております。
 離農がどんどん続いていけば、今の御指摘のように、では企業的農業に切りかえればいいじゃないか、こういう話になってくるかと思うんですけれども、企業的農業だけになってくれば、やはり、日本の環境をどう守るのか、地域社会、過疎化する農村社会をどう守るか、そういう問題まで波及してくるんじゃないかと思っております。

○斉藤(和)委員 本当に、先生方、ありがとうございました。TPPは、農業だけではなくて、地域経済、あらゆる問題に波及する。こういうものを徹底的にやはり審議すること、強行採決は絶対に許されないし、そもそもTPPからは撤退すべきだと私も改めて感じました。そのことを最後に述べて、質問を終わらせていただきます。
 本日は、本当にありがとうございました。
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