農水委参考人質疑 農業競争力強化支援法案では農業所得は上がらない
投稿日:2017年04月06日

193-衆-農林水産委員会-7号 平成29年04月06日

○斉藤(和)委員 日本共産党の斉藤和子です。
 本日は、参考人の皆様、貴重なお時間をいただきまして、また御意見をいただきまして、ありがとうございます。
 早速質問をさせていただきたいと思います。
 まず最初に、所得にかかわって、四名の参考人の皆様からそれぞれ御意見をいただきたいというふうに思っております。
 本法案が出される過程の中で、TPPなどの協議もあり、農産物の価格が下がるということが見込まれる中で、いかに農業者の所得を維持し、上げていくかというような競争力強化プランなどがつくられる中で本法案がまとめられてきた経過があります。
 その上で、この法律によって農家の所得が上がるというふうにお考えになられていらっしゃるかどうかということと、あわせて、農家の所得を上げていこうというふうに考えたら何が必要だとお考えなのか、この点について四名の方からお聞きしたいと思います。お願いいたします。

○丸田参考人 まず一つ目の所得は上がるかというところに関しては、僕は上がると思います。
 二つ目、所得を上げるためにはというのは、高く売るか原価を下げるか、この二つしかないと思いますので、高く売れる環境に今ありますかと言われると、ノーだと思います。そういった面では、やはり原価を下げるというところが必要だと思いますので、そういった面の後押しがもしあるのであれば、本法案はその方向ですので、僕としては、非常にいいんじゃなかろうかというふうに思います。

○鈴木参考人 私は、農業所得は上がらない可能性の方が高いというふうに考えます。
 それは、今、丸田さんがおっしゃられたように、所得を上げるにはコストを下げるか価格を上げるかですが、この法案が目指すところは、むしろコストも上がり、それから販売価格は下がるということが考えられる。つまり、逆に言えば、農業所得をしっかり上げるためには、ここで、全体の流れの中で否定されている農協の共販、共同購入をむしろ強化する。それによって、しっかりと、生産資材が安く供給され、そして農産物の販売価格が上がるという状況を支援する必要がある。その部分が欠けている点が大変な問題だ。
 それから、農協が生協さん等と一緒になって、生産者と消費者を結んで、そして本物の価値に適正な価格形成をするというようなスイスでのような取り組み、こういうものについても、さらに政策的にも支援する方向性も打ち出す必要があるのではないか。
 それから、欧米の農業所得がいかにして形成されているかという点は、もう一度しっかり検証しないといけないと思います。
 私の資料の五ページにもつけさせていただいておりますように、日本で農業所得に占める補助金の割合は三〇%台でございますが、スイスでは一〇〇%、イギリスで九一%、フランスで九五%、ほとんど農業所得の全部が補助金で賄われている。このことを我々はどう考えるのか。
 命を守り、環境を守り、国土、国境、地域を守る産業は国民みんなで支える、これが当たり前であるという感覚が欧米の常識なわけです。それに対して、日本は今、ただコストを下げて、強い人が残ればいいんだと。
 確かに、丸田さんのような立派な経営がしっかりと発展することは重要でございます。ただ、この法案のもとになっている流れを見ますと、丸田さんのような頑張っている農家も含めて、既存の農家は全てある意味潰れてもいいんだ、その後に、優良な農地だけ、大手流通産業等で今農業に参入したいと言っている何とか会議のメンバーのような方々が、利益相反で、国家戦略特区で自分が入ってくるとか、そういうことばかりやっているわけですよね。こういう方々の経営がただ残ればいい、こういうふうな形になっては、農業所得の向上も食料自給率もあったものではございません。
 ですから、農業所得の向上というのであれば、もっと全体の、家族農業も含めた経営が、地域が、環境が、国土が守られるような、そういうふうな、しっかりとした欧米のような直接支払いの仕組みを本質的に議論すべきである、そういうふうに考えております。

○小松参考人 そもそも、この法律は農業者の所得を増大させる目的を持っているのでしょうかという話です。
 だって、書いてないんですもん、目的のところにも、理由のところにも。一カ所だけあったのが、第五条の農業者等の努力のところの三に、農業者の組織する団体云々で第一項のいわゆる農業者の有利な取引ですかを行うに当たっては、農業者の農業所得の増大に最大限の配慮をしろと。つまり、全農であるとかJAグループは配慮しろと、ここに出てくるだけでありますから、本当にこの法律が、御質問のように、そもそも農業所得の増大を、向上を目標にしているとは思えない。
 目標にしているならば、目的のところに書き込むべきであります。書いてないということは重大な瑕疵でありますということです。
 次に、素直に質問を受け取りまして、上がるのか下がるのかといったときに、今一つ、農産物価格に対して、消費が冷え込む、何でなんですかね、苦しくなるとやはり食費を削ろうというんですか、そこにしわ寄せがどうしてもやってくるという実情。
 非常にその辺のところがあるということと、やはり片方で、フードバンクであるとか子供食堂という取り組みが、本当なら脚光を浴びるということが、注目されるということが悲しい出来事ではあるんですけれども、そういうところの動きが出てくる。子供の貧困が六分の一である。そういうようなことを考えたときに、やはり農産物価格が上昇する方向には動かないだろう。
 次に、では、費用、コスト削減。
 産業というのは、釈迦に説法かもしれませんけれども、つながっているわけですよ。ですから、農業者に対して、おい、政府・与党のおかげで段ボールが安くなったよ、誰々君と言われて、褒められて喜ばれている先生もいるようでございますが、そうするとどうなるかというと、ああ、コストが安くなったなということで、値下げ要求が来る可能性は必ずある。
 そういうことで、私は、なかなかそういう望ましいことにはいかないだろうというふうに思っております。
 以上でございます。

○山下参考人 私の意見はここにいるほとんどの人の意見とは違うと思うんですけれども、スライドの七ページと八ページを見ていただくとわかるんですけれども、これは暉峻衆三という極めて私の尊敬する、農業経済学者の中でごく限られた先生なんですけれども、もう貧農というのは消えたんですね。
 この折れ線グラフというのは、農業所得を勤労者世帯の収入で割ったものです。一九六五年ぐらいから、農家所得は勤労者世帯の収入を上回って推移するようになったわけですね。だから、下のグラフにあるように、もう稲作農家の所得というのは、農業所得はごくわずかしかないわけです。そういうものを一生懸命倍にしたって、三倍にしたって、四倍にしたって、十倍にしたってふえないわけですね。
 そうすると、農政の目的として農家所得の向上を掲げるというのは、もう今や完璧な時代錯誤だと。農政の目的として、食料の安定供給とか食料安全保障とか、それを掲げるのは私はわかります。だけれども、農家の所得の向上を挙げるというのはとんでもない話だと思います。
 だから、さすがに、政府・与党の中では、強化プログラムの中では所得の向上と書いていて、今回、法案には所得の向上という文言が落ちたということは、私は大変評価しているところでございます。

○斉藤(和)委員 貴重な御意見をいただきまして、ありがとうございます。
 ちょっとまた角度を変えまして、第八条の四のところで、衆議院ではもう通過をしたんですが、種子法の廃止が議論をされました。今参議院に行っています。
 レジュメの方で鈴木参考人と小松参考人がそれぞれ種子について書かれていますので、この種子のところで、小松参考人は質問があればというところで触れられていませんので、ぜひ、民間参入を促進することや、今まで都道府県が有していた種苗の生産に関する知見の民間への提供を促進するというふうに書かれているこの中身について、御意見を伺えればというふうに思います。鈴木参考人と小松参考人にお願いいたします。

○小松参考人 私も、恥ずかしながら、農学部の教員ではありましたけれども、種子、種苗の重要性というのは、まあ皮膚感覚といいますか、当たり前として理解しておりましたけれども、こういう動きが来ているということについては、不勉強のそしりは免れないんですけれども、恥ずかしながら、今回、ここ数カ月、驚きながらフォローしてきたわけであります。
 種苗ビジネスとか種子戦争とか種子戦略とかと言われるぐらい、やはり我々の食料というのは、Aという車とBという車からCという車は生まれないわけであります。例えばの話、雄しべと雌しべ、そういう種子の存在があってこそ生まれてくる、まさにそこが生命の連鎖性である。そこのところを、公的な責任を放棄してよいのかどうか。
 それから、民間にそういう知見を渡しなさいと。そういう基本的に重要な、例えばの話、米の品種改良でも八年、九年でやっと日の目を見る、だけれども、そのときにはもう国民の食味が変わっていたりすると売り物にならないという、ある面では絶望的なこともあったりする。それでも、そういうことを公的な負担においてやっていく、責任を持っていくという、一種の食料に対する公的な責任を負うという意味で、種子に関する、あるいは種苗に関する責任を単純に民間へみたいな形で渡すことはいかがなものかというふうに、非常に責任の放棄であるというふうに私は思っております。
 以上です。

○鈴木参考人 私も同様の意見で、公共性の高い種子という食料のまさに源、要するに人間の命の根源にかかわる米などの主要食糧の種子であるからこそ、これは、国が、県が責任を持って開発し、安く普及するということをとってきたわけです。
 この一連のプログラム、法案に流れている思想というのは、基本的には、何でも民間活力を活用すればうまくいくんだという考え方がありますが、それによって自分たちが利益を得たいという企業もたくさんおるわけです。
 そういう人たちにとっては、こういうふうな形での規制緩和というものが非常に役に立つわけでございますが、特に米の種子などが、今までの成果がそのまま譲渡されるということは、まさに多国籍な遺伝子組み換えのバイオメジャーにとってはぬれ手にアワで、こういうものを活用して、少しだけ自分たちで手を加えて、それを特許化して、それで自分たちのものだと主張して独占し、種をコントロールする。こういうことがどんどん行われたら、私たちは国民の命を守ることができません。これは大変重大な問題だ。こういうことがもう既に種子法が廃止されて進んでいるということは、本当に重大な禍根を残しているということを考えないといけない。
 全ての問題、民間活力の活用ということで規制緩和して、そして、人の命や安全性、そういうものにかかわる懸念があるのに、ただ民間を活用すればいいということがどんどん進められている。
 これは世界的にも、こういうことをやったらいろいろな問題が生じる。格差の是正、それから人の命、安全性、環境、地域、いろいろな問題を含めて、こういうふうな流れというのは、世界的には今否定されつつあるわけですよ。なぜ日本だけがいまだにこういうふうな形で、規制緩和一辺倒で、そして、実はそれは一部の巨大企業の利益につながっている、こういうことを続けるんでしょうか。
 この点について、必ず見直しをしないといけない。その非常に大きな問題が、この種子法の廃止と民間活力の活用、譲渡の問題だというふうに考えます。

○斉藤(和)委員 ありがとうございました。
 次に、丸田参考人にお聞きしたいんですけれども、新規就農をされて、最後の発言のくだりに、大規模だけではなくて、地域の篤農家の方々と両輪になってこそという御発言があったと思うんですが、どんな経験の中で、大規模だけではなくて、地域の農家、篤農家の方とも連携しというか両輪でというふうにお感じになったか。経験というか、最初からそうだったのか、経験の中で変わってきたのか、その辺をお聞かせいただければと思うんですが。

○丸田参考人 最初は何も考えていなかったので、経験からという形になると思うんですが、結局、では果たして、私どものつくっている同じコシヒカリで考えた場合に、弊社のつくるコシヒカリがおいしいかと言われると、必ずしもそうではないわけですね。篤農家の方々で、何十年も経験を積まれてきてつくられている方々の方がやはりおいしいお米をつくられるということが多々あるわけです。
 僕らは、それに追いつこうと思ったら、数十年たたないと追いついていけないわけで、そういった方々がブランド価値を高めて、その地域のブランドも維持して、次の世代に伝えていくということがやはり起こり得るわけですね。
 例えば新潟県だと、南魚沼の関さんというすごく若い生産者がいるんですが、全国でのそういった品評会とかでもトップの賞をとるような方々がいらっしゃるわけです。そういった方がいる新潟で、一方、僕らみたいなこういう大規模な生産者が出ていくことによって、多分、皆さんの中で、新潟というものの多様性とブランド価値というのは維持できるのではないかというふうな議論をそういった若者の中でもしていく中で、やはり僕らは、それはどっちがいい悪いではないよねと。では、例えば、全部おいしいものだけつくってくださいというと、彼らは百町歩でおいしいものを今度はつくられないわけですから、手間がかかるわけで。では、農地を守らなくていいんですかと言われると、そこはやはりノーなわけですよね。
 そういうふうに考えていったときに、やはりそれは僕らとしては両輪であって、それがあることによって、初めは新潟県という視点で考えていましたが、もうちょっと大きな視点で考えていけば、輸出というところだったり、ほかのブランディングということでも考えていくと、やはりその両輪がそろって初めて成り立つのであろうというような考えに至ったということになります。

○斉藤(和)委員 やはり私も、非常に多様な農業のあり方が求められているだろうなということを感じています。
 最後に、今、農水省は必要ないと言わんばかりの論調が一方であるわけですけれども、今後の農政というか、農のあり方、その全般についてぜひ御意見を、今度は山下参考人の方から一言ずつ、今後の農政についてどのように、何が今求められているのか、お考えなのか、ぜひお聞かせいただければと思います。

○山下参考人 一九〇〇年に、その前ですかね、農商務省という役所ができて、もう随分長い時間がかかるんですけれども、戦前の農林省の一番の狙いは、小作人の解放、つまり貧農の救済、それから零細な農業構造の改善、これだったわけです。
 小作人は農地解放で、その農林省の夢はかなったわけです。それから、所得の向上、貧農の解消というのも、農外所得がふえるという形で、つまり、農業政策がよかったんじゃなくて、産業政策が地域に分散してくれたおかげで、兼業農家ができて農家所得が向上した、こういうことで解消されたわけですね。
 残念ながら、零細農業構造の改善というのはまだ実現していません。丸田さんのような人たちもどんどんどんどんふえています。だけれども、まだたくさんの米の零細な兼業農家が、高米価政策、減反政策のおかげで、農業に、米産業に滞留しているわけですね。そこの改善が必要だと思います。
 究極の目的は、国民にいかに安く安定的に食料、農産物を供給するか、これに尽きるわけです。この目的を達成できない役所なら、私はもう要らないと思います。

○小松参考人 きょうの日本農業新聞ですけれども、昨日のこの委員会での一問一答のところで、村岡議員が農水省の、名前が書いてありますから読みますよ、奥原次官が、農業が産業化し、農水省が要らなくなるのが理想だと言っているが、大臣も同じ考えかというような質問をされて、そんな話は聞いていない、彼は小規模な家族農業については大事にしようという意見を頂戴している、この記事が真意を伝えているかどうか疑問に思っているという答弁といいますか、されています。どっちもだなというのが正直なところです。
 もしも奥原さんが言っていないとすれば、それはそれで結構です。私は言っていると思っています。彼のこれまでのことを、ただし、これは私が想定しているだけの話です。言っていないとしましょう。
 だけれども、第一次産業、きょう私が最初の陳述で申し上げましたように、第二次産業、第三次産業へそういう生産要素を移転させていくということを何とかブロックをかけ、そして、さまざまな役割、地域政策であり産業政策、両方を一体化して進めなければならない省庁として十分存在する意義はある、あるいは存在しなければならない、ねばならないと私は思っています。
 そのためには、やはり基本的には国民を飢えさせないために、そして、さらには健康で文化的に、適切な食料を持続的に供給できる、そういう産業ということをリードしていく象徴としての持続的な存在を私は願っております。
 以上です。

○鈴木参考人 私は、産業化、産業化ということで、農業が他産業と一緒のように扱われて、農水省が要らなくなる状態が理想であるという考えには大変驚いております。
 食料、農業というのは、何度も申し上げておりますように、国民の命、安全、環境、地域、国土、文化を守るために大変重要なものとして公共性があります。それを総合的に判断し、国民の一人一人がどうやって自分の食料を支えていくのかということについて、明確なビジョンをもう一度練り直すことが必要だと思います。
 そのためには、今のような、私的な諮問機関に利益相反のような皆さんが集まって、勝手に、私益を高めるためにこれがいいじゃないかと言ったことが法案化されて、どんどんそれに従わざるを得ないような状況を即刻やめていただいて、農林水産省が、食料・農業・農村審議会等を通じて、各界の意見を全体として反映して、これが我々の国民を守る政策だというものをしっかり出してもらう、こういうことをもう一度やり直さないと、とんでもないことになるというふうに考えております。
 以上です。

○丸田参考人 僕は生産者ですので余り詳しいところは正直わからないんですが、僕が非常に感じるのは、やはり農業の未来が明るいということを見せてもらうことが非常に重要ではないかと思います。
 例えば、ここ一年間ぐらいの日経さんとか日農さんとか地方紙とかを見た中で、農業の未来が明るいような記事が果たしてどれぐらいメディアの中であったのか。例えばトヨタ、史上最高益とかそういうのが出るように、農業のどこどこが、生産者が史上最高益でとか、それを見て若者たちが、四大卒業の人たちが行きたいなんて思うような記事が果たしてあっただろうか。多分ないですよね。
 そんなことを、そんなふうな暗い報道しかされていないところに対して、若者たち、四大卒業の人たちは就職したいと思いますか。絶対思わないですよ。なので、そういうような人たちを、人不足で云々ということよりも、明るい、そこで入りたいと思わせるようなことをまず僕はやるべきなのではなかろうかなというふうには思います。
 それは農政だけじゃなくて、きっとこういった場もそうで、なので、そういったところでぜひ明るいということを伝えて、メディアの方々にも出していただくようにして、それで若者たちが入ってくれば、新しい風も吹き込んで、きっとイノベーションも起こって、いろいろな考えが出て、新しい農業経営が出てくるような形に僕はなるのではなかろうかなというふうには思います。
 ですから、農政にと言われるとちょっとあれですが、ちょっと薄っぺらい言葉かもしれないですけれども、明るい、そういったようなことを、未来をつくってもらえるようなことになればいいなというふうに思います。

○斉藤(和)委員 ありがとうございました。
 やはり食料をどう安く安定的に供給していくのか、ここがやはり肝ですし、農業の持っている多面的機能、こうした包括的な、未来が明るくなる、そういうビジョンが求められているなということを痛感いたしました。
 ありがとうございました。