農協法改正 農協そのものを解体することにほかならない 2015年6月10日 農林水産委員会
投稿日:2015年06月10日

189-衆-農林水産委員会-16号 平成27年06月10日

○斉藤(和)委員 日本共産党の斉藤和子です。よろしくお願いいたします。
 済みません。質問通告がないんですが、先ほど金子委員の質問に対して、大臣が地方公聴会の議事録を読んでいるというふうにおっしゃられたんですが、私、実は、地方公聴会、山梨に参加をしていまして、非常に重要な発言が多かったもので、議事録が欲しいときょうの朝もお願いしたんですが、出ていなかったんです。大臣は持っていらっしゃったんでしょうか。

○林国務大臣 言葉が正確でなかったかもしれませんが、私が見ましたのはこの概要というものでございまして、これには、意見陳述のポイント、それから質疑のポイントということで、かなり詳しく書かれているところでございます。

○斉藤(和)委員 わかりました。
 何か速記録は出たようなので、石川の方も含めて私もしっかり読ませていただいて、審議させていただければというふうに思っております。
 それでは、質問に入らせていただきます。農協法等の一部改正案で、本日は、農協を中心に質問をさせていただきたいと思います。
 まず、基本的なことなんですが、林大臣の協同組合原則についての認識をぜひお聞かせいただければと思います。

○林国務大臣 協同組合原則というのはICAが出されておられるものだ、こういうふうに承知をしておりますが、ICAの協同組合原則というのは、非政府組織である国際協同組合同盟によって採択されたものでありまして、いわゆる条約というものではないということでございます。
 したがって、当然のことながら、政府として、これについての解釈権を有するものではない、また、その内容に拘束されるというものではない、こういうことでございますが、農林水産省としては、世界の数多くの協同組合が参加するICAの協同組合原則についても、できる限り尊重したいと考えております。

○斉藤(和)委員 ありがとうございます。
 それで、これまで何度も農協法の改正というのは行われてきたと思うんですけれども、今回のように、農協法改正に当たって、JA全中が自主改革案という形でまとめてきたという実績はあるんでしょうか。

○林国務大臣 例えば、平成十四年のペイオフ解禁等を控えまして、JAバンクシステムの構築等を行った平成十三年の農協改革法案に関しましては、農協系統として、平成十二年に開催をされました第二十二回のJA全国大会で、JAグループの経営、事業、組織の改革を含む大会議案を策定、決議をされた、こういうふうに承知しております。
 また、それより少し前ですが、いわゆる住専の問題があったとき、農中と信連の統合を可能とする制度の導入等を平成八年の農協改革法案で措置したわけでございますが、このときもJAグループは、農協系統の再編合理化を進めるための「JA改革の推進について」、こういうものを決定されておりますので、自己改革案というものをまとめたのは今回が初めてではないというふうに考えております。

○斉藤(和)委員 個々の問題について決議を上げたり改革を出したということはあるんですが、このような、全体にわたって農協みずからが出したというものは多分ないと思うんです。
 まさに、JA全中は、みずからの協同組合としての農協の存亡の危機だと規制改革会議の農協改革案を認識し、みずから自己改革案をまとめたというふうにとれるわけです。
 それは、二〇一四年六月二日、「JAグループの組織に対する攻撃をはねのけ自らの意思に基づく改革の実践に関する決議」というものの中で、「規制改革会議の意見は、すべての項目が組織全体の結集力を弱め分断をはかり、JAグループ全体の解体につながる内容となっており、我々自らの意思による改革を無視したもので断じて受け入れることはできない。 改革は、自らの意思に基づいて行うものであり、民間の自治組織である協同組合としての大原則である。」としているわけです。
 そこで、規制改革会議に聞きます。
 規制改革会議のワーキング・グループで、二〇一四年十一月六日、JA全中がJAグループの自己改革を取りまとめます。それからわずか六日後に、「農業協同組合の見直しに関する意見」を取りまとめています。その取りまとめた理由、そして、そもそも、規制改革会議として協同組合の原則についてどのように理解しているのか、また規制改革会議の中で協同組合原則について議論されたかどうか、お答えいただきたいと思います。

○羽深政府参考人 お答えいたします。
 規制改革会議では昨年十一月に、農業ワーキング・グループにおきまして、全中から今先生のお話がありました自己改革案についてヒアリングを行いました。その自己改革案の中では、中央会の経営相談、監査、代表機能及び総合調整機能を行うため、農協法上の措置が必要という御説明がございました。
 これらの説明に対しまして、規制改革会議としましては、一つは、中央会は純粋な民間組織として、単位農協の任意の求めに応じる形で事業を遂行していくことができるはずでありまして、法律上の裏づけは必要がないのではないか、もう一点は、経営相談と監査を同一の主体が実施することは監査の独立の観点から問題があるのではないかというような議論が行われました。
 これらを踏まえまして、全中監査の義務づけを廃止し、農協法から中央会に関する規定を削除することが適切であり、後継組織は、一般社団法人となって、会員のリクエストに応じた調整を行えばよいという意見が取りまとめられたと承知をいたしております。
 また、協同組合原則の関連では、規制改革会議におきまして、農協改革と国際協同組合連盟の協同組合原則との関係について議論がなされたことはございません。
 以上です。

○斉藤(和)委員 つまり、規制改革会議の影響は非常に大きいわけですが、その規制改革会議の中では、この協同組合の原則は一切議論されずにさまざまな御意見が出されているということで、非常に私は大問題だというふうに思っております。
 そこで、大臣、協同組合原則はできる限り尊重するというお話が先ほどありましたけれども、JA全中の自己改革案、これをやはり法制化すべきだったのではないかというふうに私は思うんです。
 先ほどもありましたけれども、二〇一四年の十月九日、世界最大のNGOである国際協同組合同盟、ICA理事会がプレスリリースで、日本の農協改革の動きに懸念を表明し、協同組合原則を侵害するものと非難したわけです。これは前代未聞の事態だと思うんです。
 二〇一二年に世界協同組合年として、この委員会でも発言されていますが、国連が農協の発展を促進するように各国政府に働きかけたばかりのそういうときに、なぜ、農協がみずから自己改革案を出しているにもかかわらず、それを葬り去るようなやり方をしたんでしょうか。

○林国務大臣 葬り去ったとは思っておりませんで、まず、ICAが意見を出されたというのは、今御議論いただいたように、規制改革会議の案についていろいろな懸念が出された、こういうことでございます。
 当然、規制改革会議というのは政府の中の、総理の諮問機関ということでございますから、これも大いに参考にしながら、政府・与党として最終的な取りまとめをやっていく。
 先ほど申し上げましたように、昨年の六月に大きな経済主体の取りまとめをいたしまして、十一月にその流れの中でJAが自己改革案を出されて、随分その自己改革案の中からこの法案に取り込まれたものも入っている、こういうふうに思っておりまして、残った全中に関する部分について、一月を中心に政府・与党でしっかりと議論をしてやっていった、こういうことでございます。
 そして、農業者や農協系統の組織の皆さんの御意見も聞きながら、最終段階ではこの系統組織の皆さんとも何回も調整を行って、合意の上で本年の二月にこの骨格を取りまとめた、こういうことでございます。

○斉藤(和)委員 いろいろ取り入れたというお話なんですけれども、私は単なる言いわけにすぎないなというのが率直な感想です。
 先ほども挙げましたけれども、規制改革会議が出した見直しに関する意見は、もう完全に、JA全中が出した自己改革案を私は全否定しているものだと。その後、与党協議なども行われて、准組合員制度の撤廃をちらつかせて、結局、法改正を無理やりのませたんじゃないか、そういうふうにとられてもおかしくないような状況があるんです。
 先ほどのICAの声明で強調されているのが、特に、協同組合組織を脱協同組合化し、株式会社にしようとしているが、それは非合理的なプロセスであるということを指摘しているわけです。
 今回の法改正で、全農、経済連の株式会社化を選択できる規定を導入し、さらに、組合はその組織を変更し、株式会社になることができる規定を導入しました。なぜ、この株式会社化の規定を導入したんでしょうか。

○林国務大臣 国会での議事録に残る御質問でございますので、先ほどの、私は与党の立場でまとめておりましたので、どういう根拠でそういうことをおっしゃっておられるのかというのは、もしおわかりになればお示しをいただきたい、こういうふうに思っております。
 その上で、株式会社への組織変更を可能とする規定ということでございますが、これは、先ほど村岡先生の御質疑にもお答えしたところでございますけれども、まさに実際上、地域のインフラとしての側面を持っているというのも事実でございますので、員外利用規制等によってこれがなかなか難しいというところがあるいはあるかもしれない、こういうことでございまして、あくまで選択肢をふやしていこうということでこういう規定を入れさせていただいた、先ほど御答弁したとおりでございます。

○斉藤(和)委員 私は、やはり今のJAの皆さん、地方公聴会で出された単協の意見を見ると、そういうふうにとられてもおかしくないのではないかということを指摘したわけであります。
 農協の株式会社化、これは既に、米韓のFTAを締結した韓国でも実は強行されています。そして、経済事業会社、農協銀行、農協生命保険、農協損害保険、それぞれの株式会社に分割をされました。
 今回の改正では、株式会社になることができるということですけれども、附則の五年後の見直し規定で、この法改正で株式会社化が進まなかった場合、さらに促進するようなことをやるのでしょうか。

○林国務大臣 今回の農協改革は、地域農協が、事業の対象者が複雑化する中で、組合員のニーズに応じて事業を適切に運営するために、事業の内容、対象者に応じて適切な組織形態を選択できるように、必要な場合には、選択によって組織の一部を分割して株式会社に組織変更できるようにする、こういうことでございまして、あくまで選択肢として導入をするということでございます。
 したがって、株式会社に組織変更するか、農協のままで各事業を適切に運営して自己改革の成果を上げていくか、これは各農協でそれぞれ選んでいただくということでございます。

○斉藤(和)委員 各農協で選んでいただくということですけれども、農協が株式会社になれば、地域の営農を担っていく組合がなくなり地域営農が困難になる。独占禁止法が適用になり、共販事業が展開できなくなって、協同組合というメリットも得られづらくなる。
 当然、農協法の対象外になります。例えば、一県一農協の地域ならば、その県には農協がなくなる。農林水産省としても、指導対象となる農協がなくなるわけです。生産調整とか米の流通管理、そうしたことも担ってきた農協がなくなるということは非常に大きな意味がある。選択だといいますが、そういう選択肢を入れたということだと思うんです。
 株式会社になれば、地方公聴会でも出ていましたが、利益の出ないところは削らなきゃいけないだろう。例えば営農指導、これは真っ先にリストラの対象になるでしょう。また、中山間地などでは、一層の深刻な事態が想定されるわけです。
 選択できる、選択できる。だとしたら、もし仮に、五年後に株式会社を選択したところが一つもなかった場合、この見直し規定を入れた五年後の中で株式会社化が進まなかったということを問題にしないと、大臣、はっきり言い切れますでしょうか。

○林国務大臣 選択肢でございますので、どちらかがよりいいというようなことを私はこの場で申し上げたことはないわけでございます。
 それから、県で一つになっているJAが、株式会社になるとJAがなくなるということですが、先ほど申し上げておりましたのは、組織の一部を、例えばガソリンスタンドのような部分を分割してできるようにするということでございまして、それもあくまで選択肢でございます。
 今、一県一JAになったところ、例えば香川県だったと思いますが、そういうところが丸ごと株式会社になるというのは我々も念頭に置いていませんし、そういうことをされるとは現実的には思わないのではないか。
 我々が意図しておりますのは、先ほど村岡委員の御質問にお答えしたように、インフラとして事実上機能している部分について、員外利用というのがどうしてもいろいろな制限がかかってきますので、その部分については、そうした方がいいという御選択があればそういう道を開いておく、このことにとどまるところでございます。

○斉藤(和)委員 そうすると、五年後の見直しで株式会社が全然広がらなかったとしても、全くそこは問題にしないというふうに捉えてよろしいでしょうか。

○林国務大臣 まさにおっしゃるとおりで、今の時点でそういうことを想定して法案を提案しておるわけではございません。

○斉藤(和)委員 なぜここにこだわるのかといいますと、平成二十六年六月の与党取りまとめの骨格の中で、「農林中金・信連・全共連は、経済界・他業態金融機関との連携を容易にする観点から、金融行政との調整を経た上で、農協出資の株式会社に転換することを可能とする方向で検討する。」というふうに書かれているんです。
 実際は、今回の改定では、信用事業、共済事業に関しては株式会社になることから除外をされていますが、金融庁と中長期で検討をするというふうに言われているわけで、ここをきっかけに信用事業や共済事業まで株式会社化を進めるのかというような捉え方もできるわけです。その突破口に株式会社という選択肢を入れたのではないかというふうに私は思うんです。
 それをなぜ言いますかというと、実は、これは代表質問で我が党の畠山さんも指摘しましたが、在日米国商工会議所の意見書で、JAグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資する形で組織改革を行うべきという意見書が出されています。
 その中で、JAグループが実質的に不特定多数に販売できる規制を利用して金融事業を拡大させてきた、金融庁規制下にある保険会社は生命保険と損害保険、これを一緒にやってはいけないという禁止があるけれども、JA共済にはこれが認められている、このような緩い規制環境に置かれたJAグループの金融事業は、既に日本の保険市場における大きなシェアを占めている、JA共済は、保有契約件数で見ると日本の生命保険会社として第三位の規模を持ち、生命保険収入でのシェアは一〇%以上に及ぶ、さらに、JAの自己改革に対して、JAグループの金融事業のさらなる肥大化になる、准組合員の拡大が進むおそれがあるというふうに指摘をしているんです。
 この後に、今度は、共済と金融庁規制下の保険会社の間に平等な競争環境の確立をという意見書が出されています。そこには、日本の政府が規制改革実施計画、閣議決定において、JAグループにおける准組合員の事業利用について、正組合員の事業利用との関係で一定のルールを導入する方向で検討すると約束したことを歓迎するというふうにまで書かれているわけです。
 このアメリカの意見というのが、何か本当に今回の農協改革の中心的な柱になっているというふうにもとれますし、やはり株式会社化を、選択肢ではあっても入れたということの意味の大きさというのはあると思うんですが、改めてお聞きします。
 五年後の見直し規定の対象には、この株式会社化の要は推進というものは入らないということでよろしいでしょうか。

○林国務大臣 日本は自由の国でございますので、先生が自由に言論されるのと同じように、ACCJも、在日アメリカ商工会議所だったですか、言論の自由がある、こういうことだ、こういうふうに思います。
 見直し規定でございますから、これは一般的に法律には大体付されているものでございまして、何か方向性を持って見直すときには、こういう方向で見直すとかそういうことが普通は書かれるわけでございますが、そういうことも付しておりませんので、単純な見直し規定だ、こういうふうに考えております。

○斉藤(和)委員 わかりました。単純な見直し規定だということで、五年後にどうなるのかということをしっかりと見たいというふうに思います。
 ただ、やはりこの株式会社化ということは非常に重く私たちは受けとめなければいけないというふうに思うんです。
 この話は有名な話ですけれども、例えば、オーストラリアのAWB、農協的な小麦輸出独占組織が、農家が株主になって株式会社化をしました。二〇一〇年十月にその株式会社したところをカナダの肥料会社アグリウムが買収し、一カ月後の十一月に米国資本の穀物メジャーのカーギル社に売り払われてしまったということが起こっているんです。
 仮に全農が、選択だとはいえ株式会社化した場合、このような事態があり得るということです。特に、米国ニューオーリンズ州に世界最大の穀物船積み施設を保有している全農の子会社、全農グレインが多国籍企業に狙われているという話もあるようです。
 この全農グレインというのは、遺伝子組み換え作物を分別管理しているところだと。まさに、遺伝子組み換えの小麦の導入を目指しているアメリカにとっては目の上のたんこぶなわけです。その全農グレインの存在が非常に不愉快だからこそ、AWBのように全農を株式会社化してその後買収するというようなシナリオも十分あり得る。
 それぐらい、農業協同組合の原則が本当にないがしろにされる株式会社化の規定というのは、やはり農協そのものを解体するものにほかならない。
 参考人の方も言われましたけれども、廃案が適当だというふうにおっしゃいましたが、私も本当にそのとおりだということを最後に強調して、質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。