無保険農家が増加しかねない 農業災害補償法改正 参考人質疑(6月6日、農水委 議事録)
投稿日:2017年06月06日

193-衆-農林水産委員会-18号 平成29年06月06日

○斉藤(和)委員 日本共産党の斉藤和子です。
 四人の先生方、貴重な御意見をいただきまして、本当にありがとうございます。
 まず、高橋参考人と鈴木参考人に、共済の問題、農業災害補償の方からお聞きしたいと思います。
 農業共済が果たしてきた役割というのは、農村を維持し発展させていく、そして相互扶助という形でやはり農村地域を支えていくといった点で、非常に大きな役割を果たしてきたと私は感じています。それが、今回の改正で、当然加入がなくなる、また、七割の農家の方が入っているとも言われている一筆方式や無事戻しがなくなるといったことが、こうした農村の今まであった相互扶助、支え合いの精神、こういったものに影響が私はあるのではないかというふうに感じているんですけれども、今まで果たしてきた農業共済制度のあり方と今後の改正による懸念される事項、心配事、先ほど無保険者が出ては困るというお話もありましたけれども、その辺、お二人の参考人から意見をお聞きできればと思います。

○高橋参考人 農業共済は、最初の陳述もいたしましたように、これまで、共済金の支払いを通じまして、農家経営の安定、地域経済の発展ということに尽くしたということでありますが、私は、それ以上に、この農業共済という農業団体は、農家の組合員の参画については、ほかの団体に比べても非常に集中しているんじゃないかと思っております。
 実際に、その役員、非常勤が九割以上でありますけれども、役員のみならず、損害評価員あるいは共済部長という形で、自分たちでこの組織を運営してきている。実際に農業共済の現場で農業共済の仕事をしている、これは損害防止事業も全部含めてでありますけれども、このかかわりというのは、やはり何十万という組合員の方がボランティア的にやってきているということもありまして、農業共済をみずからつくり上げてきたということに対しては、非常に大きな、先ほど先生もおっしゃられましたコミュニティーの維持ということでも役割を持ってきたと思います。
 ただ、今回、制度改革がさまざまな理由で行われるわけでありますけれども、そのやはり一番の基盤は、農業、農村の実態が高齢化をしている中で、本当にこの地域コミュニティーをどうやって維持していくのかということに尽きると思っておりまして、やはり共済としては、これまで以上に農家との間の信頼関係を強化していく、そのために必要な、農家、農業、農村現場へ積極的に出向くということを進めていく必要があるというふうに思っております。

○鈴木参考人 農業共済の果たしてきた役割につきましては、斉藤先生、それから今の高橋会長からのお話に全く私も同感でございます。そういう形で、農村コミュニティーの持続性に、まさに全員参加型の相互扶助である共済の仕組みがいかに重要であるか。
 もう一つ挙げますならば、そういう中で、単に災害が起きてからの補償だけでなくて、いかに地域全体で被害を未然に防止するか。そのための無人ヘリによる病害虫防除あるいは病害虫発生予察調査など、きめ細かく幅広いリスクマネジメント活動も展開されている。こういうふうな活動ができるのはまさに当然加入だからこそでありまして、だからこそ相互扶助の原理が働くということでございますので、ぜひとも実質的な当然加入が持続できるようにしていくことが肝要であると思います。
 そういう意味では、もう少し具体的に申し上げますと、この農業共済に加入していることをさまざまな政府の施策や融資を受けるときの資格要件にするなどの具体的な工夫を行うということが必要なのではないか、そのようにも考えております。
 以上でございます。

○斉藤(和)委員 ありがとうございます。本当に共済は重要な役割を果たしていると。それをやはり本当に維持する方向で頑張らなきゃいけないというふうに思っております。
 次に、収入保険の問題についてお聞きします。
 青色申告者でなければということで、現に七割ぐらいの農業者の方は収入保険に入れないことになるわけですけれども、先ほど山下参考人から、この収入保険が魅力があれば、青色申告であろうと何があろうとやるじゃないかというお話がありました。それも受けて三人の参考人の方にお聞きしたいんですけれども、高橋参考人には、実際に農家の方とかかわる機会が一番あるかとは思うんですが、この青色申告をめぐって、農家の方々の受けとめ、そして何が一番障害になっていると感じていらっしゃるかということをお聞きしたいと思います。
 そして、安藤参考人、鈴木参考人には、青色申告に限らなくてもいいんではないかという御指摘がありました。その辺、もう少し御意見を伺えればと思います。よろしくお願いいたします。

○高橋参考人 青色申告に対しまして、全国で四十四万戸程度というふうに伺っております。担い手の中の大体三分の一ぐらいかなと。全農家戸数でいきますと、もっと少ない割合になりますけれども。
 実際に農家の方々とお話をしておりまして、当然法人は別にいたしますけれども、やはり経営体としてきちんとした経理を行っていくためにはこれは必要だろうということで、そういった方々も当然行っておられるんだろうと思っています。
 問題はやはり、白色の申告の方々がなぜ青申にまだ行かないのか。実際、白と青の差というのが、簡易の青色申告というのもできておりますので、片一方で白の方は帳簿の備え義務も出てきまして、差が随分なくなっています。
 したがって、青色申告に対する抵抗というのは今までに比べればないはずなんですが、やはり現場に行くと、さはさりながらというのがあります。それは、私は、これも推測でありますが、かなり長い農業課税問題、標準課税問題とか、これはいろいろございました。農業の所得把握に関します税務当局とのさまざまな、何十年間にわたる運動というのもございましたので、そういったようなことが残っているということもあるかもしれません。
 しかしながら、やはり今後の経営ということにとってみれば、青色申告に移行していただくということが重要なのではないかなと思っております。

○安藤参考人 青色申告者に施策の対象を限定するかどうかという問題です。
 私は、青色申告者だけに限定せずに、もっと幅広い方々の加入を認めた方がいいと考えております。
 ただ、問題があります。それは、一応国の税金が投入される制度でございますので、ちゃんと収入がこれまでどうであったかということが証明できるかどうか、それが問われるわけです。その場合に一番問題がないのが青色申告だ、そういう理解でありますが、それにかわるような何らかの、収入がこれまでこうであったということが証明できるようなものがあるといいかなと。それをどういうものがいいかというのは、ちょっとなかなか直ちにお答えすることはできませんが、そうしたものを見つけて、できる限り加入の可能性がある方々をふやすということはこの後検討していただければなと考えております。
 以上です。

○鈴木参考人 現行の収入保険につきましては、先ほど来申し上げていますとおり、まず、所得の下支えにはならないということに加えて、対象が限定され過ぎていて、加入者が非常に少ない可能性が高いということで、これが日本農業の全体をカバーできるような新たな仕組みとしてはほど遠い。
 一つの選択肢がふえたとしましても、これをいかに選択肢たり得るものにするかというと、やはり、厳密性にこだわり過ぎて、きちんと収入を管理しなきゃいけない、それはわかるんですが、そのためにほとんど入れる人が限定されてしまうということでは意味がありません。
 ですので、先ほども申し上げましたが、もう少し簡易なデータで代替できる方法を何とか追求して、それによって、青色申告でなきゃいけないという点を外しまして、そしてまた、書類などももう少し簡素化できるようにするという方向性はぜひとも必要になるのではないかと思います。
 特に、一つの参考になるのは、漁業共済における積立ぷらすのような、いわゆる収入保険でございますが、これは普及率が七割を超える。もちろん、青色申告者には限定しておりません。こういうものをしっかりと参考にする。取引の違いもあるとは思いますが、まだまだ考慮する余地はあるのではないかというふうに考えております。

○斉藤(和)委員 次に、ちょっと全体像としてお聞きできればと思うんですけれども、農業の共済にしても収入保険にしても、セーフティーネット、山下参考人はそれが必要なのかという御指摘もありましたけれども、やはり共通しているのは、日本の農業は、必要ないというふうにはならないというふうに思うんです。
 多面的機能や食料の安全保障、山下参考人もおっしゃられましたが、これを維持していく上で、農家がきちんと農業をし、再生産し、農業経営をやっていけるその土台として、私は、やはり農業共済が果たしてきた役割は非常に大きいのではないかと。その点で、災害に対する補償はあるけれども、価格が落ちたものにはない、だったら、すき間産業として収入保険をやり、全体としては共済を強化するという方向もあり得たのではないかというのは個人的に私は思っているんです。
 その上で、農業を今後も引き続き発展させていく、そして、多面的機能や食料安全保障を維持していく上で、本来あるべきというか、こういう制度が農業を発展させていく上で必要なのではないかというような御提案がもしありましたら、ぜひお聞かせいただきたいと思います。山下参考人から、順番にお願いしたいと思います。

○山下参考人 多面的機能、食料安全保障、みんなすばらしい言葉なんです。でも、では実際の農政は何をやってきたか。減反をやりました。多面的機能というのは、水資源の涵養、洪水防止、景観、みんな、水田を水田として、米をつくるからこそ果たしてきた役割なわけですね。ところが、減反をすることによって米をつくらせないという政策を、しかも補助金をつけてやるという政策をこの四十年間やってしまった。それから、食料安全保障に必要な農地面積も、減反をやってから百万ヘクタールの水田が消失してしまった。
 これは私の反省もありますけれども、農林省は今まで何をやっていたかというと、日本の主食であるはずの米をつくらせないように、つくらせないように。私は、変な話だけれども、これは右翼の街宣車は来ないんですかねと思うんですね、過激なことを申し上げて恐縮なんですけれども。これが本当に、安倍総理は日本が瑞穂の国だとおっしゃいます。でも、では農林省がやっていることは何か。日本を瑞穂の国からパンの国にしようという政策をずっとやってきたわけです。
 だから、私が申し上げたいのは、よい政策というのは、その対象に直接、ダイレクトに光を当てる政策が一番いい政策だ。これは、少なくともまともな経済学を勉強した人なら誰も異存はないと思います。そうすると、多面的機能のための政策、食料安全保障のための政策、いずれも農地資源の確保なんです。そうすると、農地当たりの直接支払いを導入すべきだということになります。
 それから、ちょっと先ほどの補足で申し上げますと、青色申告の話なんですけれども、一つだけ申し上げます。主業農家は三十万戸しかありません。今は四十四万戸ぐらいあると言いましたけれども、主業農家の二十八万戸でも、これは戸数では確かに二二%なんですけれども、農業生産額からすると八割、九割のシェアがあるんだと思います。そういう意味では、ある程度の大数の確保はできているのではないかなというふうに思います。

○鈴木参考人 先生がおっしゃるとおり、農業が持つ多面的な機能、命を守り、環境を守り、地域を守り、国土を守り、国境も守る、そういうふうなものを日本の農業がしっかりと果たしていくためには、海外に比べて土地制約が非常に大きい中で、どうしても努力では埋められないコストの格差というものがございます。そういう中で、貿易自由化も進み、いろいろな規制緩和が進む中で、最低限の所得の下支えをどのように確保するかということがどうしても必要になるというふうに考えております。
 その点では、先ほど私が挙げました選択肢のほかに、参考になるものとして、アメリカの酪農が二〇一四年の農業法でたどり着いたマージン補償というのがあります。これは、価格や収入を支えてもコストが上がれば支え切れない、要は収入引くコストのマージンが問題だ。だから、そこで、簡略化しまして、キログラム当たりの乳価引く餌代が日本円で九円を下回ったら、その九割は政府が補填する。これは、乳価は農務省が毎月公表していますし、餌代はシカゴのトウモロコシ価格をとると、非常に簡略化しております。もし、九円でなくて十八円のマージンが欲しい方は、自分で手数料を上乗せして、いわゆる保険ですよね、その補償が得られるようにしましょうねと。このようなマージン補償の考え方も一つの選択肢であると思います。
 そういうふうな形で、最低限の所得を支える仕組みと、どうしても必要な農業災害補償の農業共済を二本立てにする、こういうふうな選択肢もあり得るのではないかというふうに考えます。

○安藤参考人 御質問に対して十分なお答えになるかどうかわかりませんが、私が考えるには、これは山下先生の方からもありましたが、最終的にはEU型の直接支払いを考えていかざるを得ないと私は考えております。
 しかしながら、一番の大きな問題は予算にあります。
 EUがなぜ直接支払いを行うことができたのか。それは、九二年のマクシャリー改革まで、EUは、輸出補助金それから価格支持政策で相当な予算を使ってきました。その予算を直接支払いに置きかえたわけですね。新しく直接支払いの予算をとってきたわけではないわけです。
 日本の場合に、それを振り返ってみますと、減反政策、一九七〇年、七一年からでしょうか、そのときからずっと米の予算を削ってきて、今、三千億とかそれぐらいしか米の本来の予算というのは多分ないのかもしれませんが、その予算で直接支払いをすることはできるかどうか、つまり、EUと同じことを日本の財政から考えてできるかどうかというと、残念ながらできない。その予算をとってきて、そして直接支払いをするということが求められているんだと私は思っております。
 この予算の問題はさまざまなところに影響しておりまして、例えば、先ほど私はナラシ対策の方が有利ではないかという話をしたわけです。そうすると、ナラシ対策の拡充ということも考えられるかもしれませんが、しかしながら、国が積み立てる財源に限界があるわけです。もちろん農水省の中にも部、課があり、それぞれが持っている予算があって、それを束ねて何らかのことができればいいかもしれませんが、そういう形で予算の制約がある中で対応していくと、複雑な制度ができ上がっていくということになります。
 それからもう一つ、私が、日本的な特殊性がある、農業政策という特殊性があると思っていますのは、生産調整政策というのはある意味で水田を保全する役割を果たしてきた、水田維持直接支払い、そういう役割を果たしてきたんじゃないかというふうに考えております。ただ、その予算が十分ではなかったためにかなりの農地も荒れたというのは事実ですが、しかしながら、水田を維持する役割を果たしてきた、私はそのように考えております。
 いずれにしても、農水省の予算をさらに拡充していくことが、そしてその中の重複している部分を統合していく、そのようなことが今後求められていくのではないかというのが私からの意見となります。
 以上です。

○高橋参考人 農政全般のお尋ねだったと思いますけれども、二つ、まず大きなポイントがあると思っております。
 一つは、災害対策というのは、いろいろ一生懸命仕事をしている人たちが不慮の災害によってマイナスの状態になってしまう、この人たちをもとへ戻すということは、対象が大きな農家であれ小さな農家であれ、これは私は差別はないと思います。やはり何とかもとの営農まで戻してあげる、そのための災害対策。
 したがいまして、農業災害補償法、これは、今、食料・農業・農村基本法という基本法のもとできちんと位置づけられておりますけれども、実は旧の農業基本法の時代の文章と全く同じ、同言で書かれている災害対策で、唯一残っているものであります。ですから、これはもう昭和三十六年の農業基本法の際からも、災害対策というのは農業の不慮の災害の損失を補填し、農業の再生産が阻害されないことを目的とするんだ、これは旧の基本法、今の基本法にも書かれているわけでありまして、時代を通じた普遍の原理ではないかと思っています。
 その上で、では、農業の発展を今後どういうふうに支える基盤をつくっていくのかというセーフティーネットの議論が、災害、プラス、先ほど来ございます価格の低下、そういったものに対してどのように仕組んでいくのか、これも長い歴史の中で、生産調整以来、あるいは経営所得安定対策以来、岩盤対策以来、いろいろな御議論の中で今回の収入保険の制度設計に至ったのではないかなというふうに考えております。

○斉藤(和)委員 四人の参考人の先生方、本当にありがとうございました。
 時間が来ましたので、終わります。