太平洋戦争開戦80年。NHKが複数の特集番組を放映し、私はいくつか特集を観ました。一番考えさせられたのは、香取慎吾氏が主演した年末の「太平洋戦争80年・特集ドラマ 倫敦(ロンドン)ノ山本五十六」でした。その後、今年に入りBS1スペシャル「山本五十六と“開戦”」が、ドラマの元となった新資料などをもとに深層に迫り、日本はなぜ戦争に突き進んだのかに迫りました。
山本五十六は、1919年36歳でアメリカに留学、6年後ワシントンで駐在武官を経験。アメリカの資源の豊富さ、世界有数の工業国であり、発展した航空機産業。アメリカの豊かさを実感。「アメリカと戦争になれば、必ず日本は負ける」と。
80年たって出てきた新しい資料「海軍の極秘文書―1920年代、30年代軍縮条約の記録―(57冊1万ページ)」は、ある海軍軍人の遺族が古書店に引きとりを依頼してきた遺品の中に含まれていたと言います。さらに、幹部の日記や山本五十六の孫がはじめてテレビの前で語るなど、膨大な資料の分析で番組が構成されていました。
「海軍の極秘文書」を引きとった田中宏巳防衛大学名誉教授は、この資料を隠しもっていた海軍史の調査研究をしていた富岡定俊氏が「戦後の時代に一番託したかったのは、軍縮に対する日本側の対応が戦争にもなったし、国際協調から外れることになって」いったことを伝えたかったのはないか、と指摘しています。
山本五十六は、この日本が戦争に突き進む分岐点となった「ロンドン軍縮会議」の予備交渉にあたり、私案まで作りなんとか戦争回避をしようとしますが、上層部の理解は得られず決裂、脱退。日本が軍縮体制を壊し、世界から孤立していく姿が明らかになります。
そして、その背景には、もう一つ熱狂的な国内世論があったと。1930年第1次ロンドン軍縮会議の時、国民の多くは「戦争はだめだ」「軍拡は不要だ」と条約の締結を歓迎していたと。それが、予備交渉が行われた1934年には「軍縮条約破棄を求める声」が大勢を占めていたと言います。その背景には、海軍が巧みに世論を誘導する、世論工作の実態も明らかにされています。
海軍の幹部と、北一輝(思想家)国粋主義団体に大きな影響力を持っていた人物が頻繁に会っていたことや、小笠原長生(元海軍中将)の日記には「新聞政略に関して、委ねることになったと告げられ、今後とるべき方針について熟議した」(1933年2月2日)など、普及しはじめたラジオや新聞を巧みに利用したことが示されています。
熱狂する世論のもう一つの背景に、「戦争反対」など異論を犯罪とした「治安維持法」(1925年)が大きく影響したことは明らかだと思いますが、番組で触れられることはありませんでした。
7月の参議院選挙は、歴史のターニングポイントではないでしょうか。過去から学び、改憲(戦争への道)を止める世論を大勢に!!力を合わせましょう。
さいとう和子
2022年2月13日付ちば民報