斉藤議員に回答 企業の要望反映
財務省が長年、企業の依頼をもとに「貿易統計」の数字を操作していたことが日本共産党の斉藤和子衆院議員の調べで分かりました。日本の輸出の状況を示す貿易統計は環太平洋連携協定(TPP)や日米経済対話といった通商交渉の前提にもなります。「現在を映す鏡」といわれる統計の恣意的操作は、政策決定を誤らせる危険な情報操作です。
貿易統計は、貿易の実態を正確に把握することで、国の政策決定や企業の経済活動に役立てることを目的としています。品目や国ごとに輸出入の金額や量を示しています。
財務省は、申請のあった企業の情報を秘匿扱いとして貿易統計に含めない“統計隠し”を行っていました。統計に含めると個々の輸出入業者の取引単価などが明らかになる場合があり、それによって損害が生じる恐れがあるという理屈です。
斉藤氏の問い合わせに同省は、2016年には輸出10品目、輸入19品目で秘匿扱いがあったと回答。個々の品目名は明らかにしていないものの、輸出品目には廃棄物が含まれるとしています。
輸出入系29品目の秘匿扱いが判明したことで、同省の恣意的な統計操作が長期間、広範囲にわたっていた疑いが鮮明になりました。
厳格なルール必要 元経済産業省官僚の古賀茂明氏の話
秘匿扱いの話は知らなかった。取引単価だけでなく、企業にとって世間に知られると都合の悪いものを隠しているのではないか。廃棄物の輸出は条約で縛りがかかっている。規制対象ではないが途上国などへの輸出がばれると批判を浴びる廃棄物を秘匿扱いにしている疑いがある。仮に秘匿扱いにしなければならないものがあっても厳格なルールが必要だ。企業にとって都合のいい隠れみのになっているとすれば問題だ。
農業政策 実際にゆがめる 財務省の貿易統計操作
財務省による貿易統計の恣意(しい)的操作が、すでに政府の政府決定をゆがめていることが、日本共産党の斉藤和子議員の4月18日の衆院農林水産委員会での質問で明らかになっています。
斉藤氏は同委員会で、国内では製造されていない人工甘味料・スクラロースが、国内の佐藤需要に与える影響を質問。答弁に立った山本有二農水相は、スクラロースの国内需要は砂糖換算で1・2万トンにすぎず、砂糖消費量の1%に満たないので「人工甘味料の需要の影響についての心配は今のところない」と断言したのです。
本紙の取材に農水省は、スクラロースの砂糖換算は貿易統計の輸入量をもとに計算したと回答。スクラロースが砂糖の600倍の甘みを持つことから、輸入量を600倍にしたいといいます。スクラロースの輸入量を20トンと見積もって試算したことになります。
ところが、厚生労働省の2014年の調査ではスクラロースの国内流通量は180トンに上ります。
斉藤氏は委員会質疑で、財務省の貿易統計と厚労省調査との大きすぎる開きを追及。三木亨財務政務官は、業者に悪影響を与える場合は統計に含めないこともあるとし「貿易統計の係数が輸出入の総数に満たないことはあり得る」と答えました。企業の意向を反映した統計調査を事実上認めたのです。
厚労省調査をもとに砂糖換算するとスクラロースの国内需要は10・8万トン、砂糖消費量の5・6%に急増します。他の人工甘味料を加えれば砂糖消費量の1割を超えるという見方もあります。
砂糖は、環太平洋連携協定(TPP)交渉参加に際し、国会が「聖域」とするように決議した重要5品目の一つです。日本の重要農作物の需要にかかわる政策が、企業の利益に配慮した貿易統計隠しによってゆがめられていることになります。
東京工科大学の工藤昌宏元教授は、統計の恣意的操作は誤った情報を市場に与えることで経済活動や経済政策をミスリードすると指摘。「統計自体の信頼性を奪うもので、まともな経済活動の妨害だ。犯罪行為に等しい。許されざる行為だ」と批判します。
国公認の“密輸” 斉藤和子議員の話
財務省による貿易統計の秘匿処理は“政府公認の密輸”ともいえるものです。しかも、財務省は他の省庁にもそのことを知らせていません。政府の政策決定を誤らせる重大問題です。
他の省庁さえ知らない、財務省のホームページにも載っていない秘匿処理扱いを、どうして特定の企業だけ知ることができたのかも疑問です。
取引単価を知られると困るというのもおかしな話で、消費者が割高で商品を購入させられている疑いもあります。百歩譲って単価を秘匿する必要があるとしても輸出入の量は公開できるはずです。統計の信頼性を担保する措置をとるべきです。
(2017年5月9日・しんぶん赤旗より)