財務省が特定企業の利益に配慮し、貿易統計を操作していたことが発覚し、問題になっています。企業の意向に沿って、統計を恣意(しい)的に公表していたとすれば、統計の信用にかかわるだけでなく、国の政策判断を誤らせかねない、極めて深刻な事態です。真相を徹底的に解明することが必要です。
輸出入業者の意向で秘匿
発覚したのは、財務省が長年にわたって続けてきた、輸出入対象品の「秘匿処理」という操作です。日本共産党の斉藤和子議員の衆院農林水産委員会での質問(4月18日)で判明しました。
斉藤氏は、国内で製造されておらず、全て輸入とされる人工甘味料スクラロースが、厚生労働省調査では、国内出荷量が180トンとなっているにもかかわらず、輸入量が16・6トンしかない矛盾をただしました。これに対し財務省の三木亨政務官が「取引の単価など、輸出入業者の営業上の秘密が明らかとなることで不測の損害を与えない」ため、「私人の秘密にわたると認められる事項については、証明書類の交付をせず、統計の閲覧をさせない」として、貿易統計に掲載しないで秘匿処理をしていることを認めました。財務省は当初、秘匿処理の実態公表を拒否しましたが、斉藤氏の重ねての要求に、個々の品目名は公表しないものの、輸出入29品目で秘匿していることを明らかにしました。
貿易統計では、輸出入品目ごとに数量と金額が明記されます。これにもとづき各省庁は政策をつくります。例えば、農水省なら農林水産物の輸入量について、厚労省なら食品添加物や医薬品などの輸入量などについて把握し、輸入量が急増すればセーフガード発動や国内産業対策などを進めます。
しかし、判断の基礎となる貿易統計が「輸出入業者の営業上の秘密を守る」ために実態が隠されるとなれば、政策を大きく誤る事態につながりかねません。財務省は各省庁にも、こんな運用をしていることを公表しておらず、各省庁は貿易統計に全幅の信頼を置いているだけに、極めて重大です。
秘匿処理をめぐる数々の疑惑も浮上しています。秘匿処理のシステム自体が非公表のため、秘匿処理を申請した企業は、このシステムをどうやって知ったのか。財務省は、秘匿処理について統一的な判断基準がなかったことを認めていますが、これまで情実判断がなかったのか。疑問は残ります。
輸出対象品の輸出単価は、たとえ秘匿処理しても、輸出先の国では、当然輸入統計の対象となり、輸入単価がわかることになり、秘匿処理する意味はありません。ここで大きな問題になる可能性があるのは、人の健康や生活環境に被害を与える有害廃棄物の輸出です。財務省は、秘匿処理について、廃棄物が対象になっていないとは明言していません。仮に、輸出業者の営業上の秘密が明らかになるとして、有害廃棄物が秘匿処理されていれば、あまりに深刻です。
多くの疑惑にこたえよ
輸出入対象品の秘匿処理は、1952年から行われているとされており、長期間、広範囲であったことをうかがわせます。
安倍晋三政権と財務省は、疑惑に答える責任があります。少なくとも、秘匿処理された輸出入対象品の品目ごとの輸出入数量をただちに明らかにすべきです。
(2017年5月12日・しんぶん赤旗より)