スギの感染病から森林を守れ 斉藤和子議員 農水委で要求
投稿日:2016年05月11日

■深刻なスギの非赤枯性溝腐病の被害
 斉藤和子議員は5月10日の農林水産委員会で、スギの「非赤枯性溝腐病(ひあかがれせいみぞぐされびょう)」について質問。国は千葉県のサンブスギに特有の病気だとしてきましたが、全国のスギや果樹にも広がっている深刻な問題であることを指摘し、本格的な対策を要求しました。森山裕農水相は「林業・農業の分野を超えた取り組みを行う」と約束しました。

 千葉県では昭和初期、全国に蔓延した赤枯病対策として、同病に強いサンブスギの植栽を奨励。96年までに県内のスギ林の17.8%、7734㌶を占めるようになりました。
 しかし、このサンブスギは、赤枯病には強くても、非赤枯性溝腐病には弱いという弱点があったのです。
 スギの非赤枯性溝腐病は、1960年に茨城県で初めて確認されたのち、1964年に千葉県でも確認されました。この病気にかかると、植栽後約20年かけて幹の側面に縦長の溝が形成されてゆき、腐朽が進んで中央部の樹皮がはげてしまいます。そうなると、伐採してこの病気にかかりにくい種類のスギに植え替えるしかありません。
 96年の時点で、県内の半分以上のサンブスギが感染しているという調査結果が出ています。県の話では、調査から20年たった今、被害林はさらに増えて、全く被害のない林は5%ぐらいではないかということでした。しかも、伐採や植え替えにはお金も人手も必要です。にもかかわらず、伐採したスギは、本来1万円の値がつくものが、2-3000円の木質バイオマスの原料にしかなりません。

■千葉県だけの問題ではない
 千葉県は1997年から本格的に対策を始めましたが、7734㌶のうち、20年かけて1000㌶しか伐採・植え替えができていません。本年度の伐採対策はわずか16㌶です。2014年度に国はようやく環境林整備事業の対象とし、3/10×170の補助金を出すようになりましたが、それまでは県が単費で行っていました。
 しかし、これは千葉県だけの問題ではありません。サンブスギの苗木は、昭和3-40年代にかけて広く流通し、最盛期には年間400万本が生産され、福島以南の関東、関西、愛知や愛媛にも植栽されたといいます。そして、2014年に千葉県森林総研が発表した「非赤枯性溝腐病と病原菌チャアナタケモドキに関する最近の知見」では、千葉県以外の地域で初めて関西でサンブスギとは異なるクローンのスギで罹病が確認されたと報告されています。この病気は千葉県に限定されたものではなく、また他の種類の樹木でも問題になる可能性があるのです。具体的には、コウヤマキの枝枯れ、サワラやヒノキの材質腐朽の原因菌もチャアナタケモドキであると指摘されています。

 斉藤議員は委員会で、「これ以上の病気の拡大を防ぐためにも、国が本格的に乗り出し、補助金を増額するとか、担い手を積極的に育成するなど、長期にわたる継続的な支援が必要だ」と質問。森山裕農水大臣は「森林総合研究所の運営交付金の確保等を通じ、対策について積極的に支援していく」と答弁しました。
 対策をとるにあたっては、今国会に提出されている森林法の改正も重要になってきます。
 千葉県では林地の一筆の平均が0.3㌶と小規模で、所有者や境界の不明な山林も多く、林業経営が困難で山林を寄付したいという声もあるほどです。今回の法改正で、共有林の所有者の一部が所在不明であっても伐採ができるようになりますが、根本的には境界の確定と所有者の明確化が肝心です。そのためにも、林地台帳を整備する自治体の作業負担軽減や地籍調査そのものを促進することが求められます。

■被害はナシにも
 さらに深刻なのは、このチャアナタケモドキは樹木だけでなくナシの萎縮病の原因菌であることが指摘されていることです。2011年の千葉県森林総研の発表では、ナシ萎縮病にかかると、春先に出る芽や葉の発育が遅れ、葉が波打ったりフチが黒くなり、枝が腐るとのことです。花が生育せず、実がつかなかったり、実がなってもピンポン玉程度の大きさにしかならない。生産農家にとっては大損害です。この病気が「秋田、福島以南の本州各県、九州に至るまで日本各地で発生している」とされています。しかし、農水省はこの実態について調査していません。
 ナシ萎縮病の防除方法はまだ確立されていないため、新しい木に植え替えるしかありません。しかし、なかなか利益も出ない、後継者もいないような農家が多い状況では植え替えも容易ではなく、対処療法で対応するしかない実態があります。林業・果樹の分野を超えて、関係地域・関係機関とも連携した調査を早急に行う必要があります。チャアナタケモドキの感染経路や防除方法、防除資材についても研究を進めなければなりません。
 斉藤議員が委員会でこの点について森山農水相に求めたところ、「分野を超えて、関係する機関が研究成果に関する情報の交換を行うなど連携した取り組みが必要であると考えている」「しっかりやる」と必要性を初めて認めました。
(スタッフK)